summersunday’s blog

忘れてしまいたいことや どうしようもない悲しさに 包まれたときに男は ブログを書くのです

眠れない夜を越えていくこと(ただの空想の出来事)

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あれは、オフ会での出来事だった。

 

 

「なかむーさん、いつもブログ読んでいます。ワタシめっちゃ恋愛系の記事すきなんです。」

そう言いながら近づいてきた美人がいた。僕は美人の言葉を信用しないことにしている。いつか振られた女の子が思わせぶり美人だったから、二度と同じ失敗はしないという学習をしたためだ。特に都会の美人の言葉は信用していない。

 

「あ、ありがとうございます。なんてユーザーネームの方ですか?」

社交性を発揮しながらも、美人を前にして、僕は言葉がどもる。やはり本能的に嬉しいと感じてしまったようだ。ユーザーネームを聞いたが、ピンとこない。スターやブックマークをくれるユーザーはけっこう記憶している自信があった。もしかしたら、ブログを読んだ形跡を残さない人なのだろうか。

 

「サラリーマンしながら、ブログ更新するのって大変ですよね。すごいです。」

在り来りなことを言ってくる美人に、つまらない人だなと感じながらも容姿に興味を持ってしまっている僕は、その場を離れるわけにはいかなかった。つい社交性が前に出る。

 

「いや、仕事は役に立たないので、まわってこなくて、社内ニートなんです。」

笑ってみせてものの、初対面の人にこんなことを言ってウケるわけがない。自分の笑顔がひきつるのが分かった。それでも笑いかけて質問をかけてくれる。酔っているのだろうか。この立食形式の大規模オフ会は、僕がブログを初めて1年が経過し、知り合いのブロガーさんに誘われたので行ったのがきっかけだった。場所は東京。新幹線で向かった。東京駅で行われた会だが、直接行くには勇気が足りず、いつもコメントをくれる同世代のブロガーさんと待ち合わせていくことにした。

 

「あのぉ、ワタシブログで10万PVとかいったことなくて、今度教えてくれませんかぁ?」

教えてほしいとは、どういう意味だろうか?後で個人レッスンをしてくれとでも言うのだろうか。今度また会いたいという意味なのだろうか。食事でもしながらゆっくり話したいとでも言うのだろうか。ぼくは完全にペースをもっていかれていた。僕がどういう解釈をしようと、彼女は僕のブログやマネタイズ手法に興味があるだけで、男としての興味ではない、そう言い聞かせながらも、ポジティブな自分が顔を出す。

 

「いやいや、10万PVなんてまぐれですよ。検索なんて全然ないですし。」

そうだった、ブログを1年続けられたのは嬉しいことだけど、10万PVを越えたのはまぐれだった。たまたま頭にきたブロガーさんのライフハックへの愚痴を書いた記事が炎上した。明らかな炎上で、何人のブックマーカーを非表示にしたか分からない。初めてブログを開くのが怖くなった。仲良しなブロガーさんからも、冷静になるように注意を受けた。心底後悔したけれど、残念なことにマネタイズができてしまった。おそらくあの炎上の記事だけを読んで、僕のファンとでも言いたいのではなかろうか。ネガティブに考え出した。

 

「婚活中って本当ですかぁ?すっごいモテそうなんですもん。実物もブログの通り穏やかで爽やかで素敵ですね。」

完全に僕は自分へのガードを強めた。このまま話を続けたら、落とされる、そう思った。落とされて、2次会の途中で二人で消えて、カフェでいいかんじになったと思ったら、好きな人がいるというオチまで想像できていた。

 

「すみません、ちょっとトイレ行ってきます。」

逃げ出した。といいつつ、心をもってかれていた。個室に入り、携帯でさっき聞いたIDを探していた。読んだことのないブログだったけれど、ツイッターで有名なブロガーさんたちと絡んでいるのを見たことがある、そんな人だった。ブログのタイトルをいくつか見ると、見やすくてキャッチーなフレーズが並んで、煽りが効いた記事が出ていた。ちょっと興味をもってプロフィール欄へ進む。

 

「顔出しは、なしか・・。ブログサロンも入ってない。月間8万PV。すげーな。マネタイズも上手い。アフィリエイトで月に3万。」

気になったブログに行うルーティンを実践したあと、得意のネット検索で、個人に迫る。mixiやinstagramと同じユーザーネームを使っている人は、顔出してなくても顔が分かったり、詳細なプロフィールまで集められてしまう。自分もmixiには出身地から学校名まですべて載せている。

ほぇー、北関東のOLさんね、東京へは月に1度仕事で来ている、instagramでは友達と楽しそうに遊んでいる姿がたくさん映っている、典型的なリア充だ。

独り言のようにつぶやいて、僕はトイレから戻った。もう少し話そう、悪い人じゃなさそうだ、ポジティブな僕がそう判断したらしい。立食形式のごはんを盛っているところを捕まえた。

「ここのごはん、けっこううまいっすね。」

話しかけ方がぎこちなかったけど、とにかく先ほどの続きのキャッチボールをしたかった。投げる球なんてなんでもよかった、矢印を向けた。

 

「そうですよね、ワタシ28にもなって実家暮らしなんで、全然料理できないんで、こういう料理とか憧れますぅ~。」

よく見ると小奇麗なファッションに身を包み、どこかとても育ちが良さそうな雰囲気が漂ってきた。いつかブログに書いた、育ちがいいお嬢様がタイプだ、なんて言葉を見られていないか気になった。田舎に住んでて、大学生のときに一人暮らしをしたけど、寂しいから実家に戻りました、そんな子がベストだ、意味のわからない好みをブログに書いていた自分が急に恥ずかしくなった。

 

「この料理はプロしか無理っしょー、難しそうやん。僕なんてカレーしか作れんよ。」

僕なりの早く嫁が欲しいアピールなのだが、返ってくる言葉は大体想像がつく、カレーが作れれば、肉じゃがも作れるし、カレーは難しい方だなんてことを想像して、ああつまらない、と考えていた。

 

「えぇ、でもなかむーさん洗濯得意じゃないですか~。掃除もできるんでしょ。」

なんとも怖い返しだった。僕のブログを隅々まで読まれている気がして、目の前で丸裸にされているような気分だった。ある意味、ふっきれたように隠すことが無くなった気分だった。恋愛で楽しい、相手のことを知っていく作業が、すべてふっとばされて僕の情報が筒抜けだった。僕は彼女のことを全然知らない。次に打つ手がわからなかった。

 

「そういえばぁ、このあと2次会もやろうって誘われてるんですけど、ワタシいますっごいカラオケがしたいんですぅ。」

カラオケが好きだ、僕が散々ブログで言っていることだった。誘われたら断りません、とまで言ってしまっていた。僕のブログを読んでいる人なので、断るわけにはいかなかった。待てよ、曲のチョイスが困る、めちゃくちゃ困る。口説きたいときに歌う曲10選なんてブログを書いたことがあるし、これ歌われたら惚れます10選的なブログも書いていた。恐ろしい。

 

「あぁ、そうだね。行くっきゃねぇっしょ。」

もうヤケになっていた。飲めないお酒を飲むことにした。

 

それからあまり記憶が定かではないけれど、カラオケで散々盛り上がって騒いだことは覚えている。サザンオールスターズの「海」という曲の最後にあるlet me kiss you now(今キスさせて)というフレーズとともにキスをせがんでいた。合コンの2次会で気になった子に使うと、決まって友人が頭をたたいて止めてくれるやつだったのだが、止まらなかったらしい。

 

意識がハッキリしたのは次の日だった。記憶が飛ぶなんて、めったにない。よくあるドラマのように、隣ですっぴんになった知らない人が寝ていた。携帯に目をやると、仲のいいブロガーさんからメッセージがきていた。二人で消えたことは知られていないことに安心して、もう一度寝ることにした。

 

目が覚めたら、完全にメイクを終えて、昨日と同じ服を着た美人が立っていた。ひどく頭が痛いし、この状況に二人とも後悔していると思っていたけど、僕の目が開いたところに屈託のない笑顔で質問をしてきた。

 

「なかむーさん、昨日言ったこと覚えてますぅ?」

 

付き合ってほしいとか、好きだとか、言ったのだろうか。正直、全然覚えていないけど、覚えていないわけにはいかなかった。屈託のない笑顔が、一気に引いていって、首を絞められるところまで想像してしまった。

 

「ワタシの名字になってくれるって言ったんですよー!」

最初は意味がわからなかった。プロポーズは軽く口にしてはいけない、そういうことは学んでいたつもりだった。お酒の力が怖かった。しかももうお酒は抜けている。それでも目の前で結婚してくれるんですかと問われて困惑した。しかも養子縁組という話だった。なんでも、北関東で政治家をしている父が、僕のブログを読んでいて、ひどく気に入ってくれたとのこと。娘一人しかいないため、後継ぎが欲しかった。そんなことを口にしていたらしい。

 

落ち着く暇もなく、議員を継ぐことになった。田舎で昔から続く政治家一家のようだった。嫁の従弟は県議会議員で、叔父さんは国会議員だった。親戚の挨拶周りなど、大変なことも多かったが、人生は不思議なものだ。

 

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3000文字超。最後まで読んでいただけた方、本当にありがとうございます。

空想の物語です。自分が出てくる、空想の。さて、現実と向き合って、落ち着いたジブリの癒しピアノメドレーでも聞いて、寝ます。

 

 

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